ナイル殺人事件 / ポワロ (ピーター・ユスティノフ主演) Death on the Nile
1978年 外国映画 4ツ星 密室 探偵 @アガサ・クリスティ全員に動機と機会があった
2016年に鑑賞。スーシェ版『ナイルに死す』(2004)に比べ、格段にわかりやすい。ポワロは乗客をひとりずつ、厳しく尋問し、全員に動機と機会があったことを、イメージ映像つきで指摘する。だれにでも可能だったなら、どうやって犯人を特定するのか? 謎が明示されたことで、集中力が高まった。
ポワロがコブラに襲われるのも、いいアクセント。壁を叩いてにSOSを伝えるポワロの機転と、武装して駆けつけるレイス大佐の機敏さがかっこいい。このシーンによって、犯人が同じ船に乗っていて、ポワロの挙動を見ていることが明らかになった。たまらない緊張感。
ほか気に入ったところを挙げておく。
- レイス大佐は弁護士の不正を知っていた→推理の飛躍を防ぐ。
- ルイーズがドイルの部屋に入ってきたから、その場で尋問がはじまった。→ルイーズはドイルを恐喝するため訪ねた。
- 盗まれた真珠が自主的に返納された。→容疑を簡略化。
- 大佐がワインのカビに気づく。→睡眠薬の混入→計画的犯罪。
- ショールを盗まれた時間を問題にしない。
- ショールにインクが染みていると指摘。
- ダイイングメッセージに死体の指を使う。→スーシェ版では犯人の指だった。
- ドイルがジャッキーに目撃者を伝えるシーンを追加。→気弱なドイル、メスの入手経路が判明。
- 犯行を裏付ける証拠がない。→ペテン(ムラージュ法)によって自白を引き出した。
登場人物
- リネット・リッジウェイ・ドイル ... 美しき富豪。旧友リネットからサイモンを奪った。ジャクリーンの復讐を警戒している。就寝中に射殺される。
- サイモン・ドイル ... リネットの夫。婚約者ジャクリーンを捨て、リネットと結婚した。事件当夜はジャクリーンに足を撃たれ、動けなかった。
- ジャクリーン(ジャッキー)・ド・ベルフォール ... リネットの旧友で、サイモンの元婚約者。リネットへの殺意を公言してはばからない。事件当夜はモルヒネで寝ていた。
- ルイーズ ... リネットのメイド。リネットに転職と結婚を邪魔されていた。朝、リネットの死体を発見する。リネットを殺した犯人を恐喝し、ベスナー医師のメスで首を切られる。
- アンドリュー・ペニントン ... リネットの管財人。じつは財産を横領していた。
- マリー・ヴァン・スカイラー ... 貴族の老婦人。盗癖があり、リネットの真珠の首飾りを盗んでいた。
- バウァーズ ... ヴァン・スカイラー夫人の付き添い。父親がリネットの父親によって破産していた。事件当夜はジャクリーンに付き添っていた。
- サロメ・オッタボーン ... 女流作家。リネットに名誉毀損で訴えられていた。ルイーズを殺した犯人を見たが、名前を言う前に射殺された。
- ロザリー・オッタボーン ... サロメの娘。ジャクリーンがサイモンを撃つ現場を目撃、サイモンをベスナー医師の部屋に運ぶ。母親を慕っており、リネットは共通の敵だった。
- ジェームズ・ファーガスン ... 社会主義者の青年。ブルジョアを憎んでいる。ジャクリーンがサイモンを撃つ現場を目撃、サイモンをベスナー医師の部屋に運ぶ。
- ベスナー ... 医師。リネットに名誉を傷つけられ、憎んでいた。
ラストのラスト、ジャッキーの告白が衝撃的だった。サイモンが愚かな方法(ベッドにコブラを仕込む)で先走りそうだったから、ちゃんとした計画を与えた。だからサイモンは悪くないと言いたいようだ。愛する人以外の命をまったく考慮しない物言いが、じつにリアル。また殺人に慣れてしまうという告白も怖い。第3の殺人はあまりに手慣れているが、2人殺して気持ちが切り替わったと考えれば納得できる。
素晴らしい。ミステリーの醍醐味は謎解きじゃなくて、そのあと浮かび上がる人間の本性だね。
スーシェ版は原作の忠実再現を目指したのか、ユスティノフ版が削った要素を戻してしまった。26年も経ってるんだから、このあたりは踏襲してよかったと思うがなぁ。
アガサ・クリスティ | |
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ポワロ | |
デビット・スーシェ (David Suchet) | |
ピーター・ユスティノフ (Peter Ustinov) | |
声:里見浩太朗
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ミス・マープル | |
マーガレット・ラザフォード | |
アンジェラ・ランズベリー | |
ヘレン・ヘイズ | |
ジョーン・ヒクソン | |
ジェラルディン・マクイーワン | |
ジュリア・マッケンジー | |
声:八千草薫
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ゆっくり文庫 | |
奥さまは名探偵 | |
ほか | |
検察側の証人 | |
そして誰もいなくなった | |
ほか |