レビュー  1989年12月30日  に発表された 

名探偵ポワロ (13シーズン/全70話)
Agatha Christie's Poirot

4ツ星

推理よりキャラクターがよかった

プロデューサーの退任や制作母体の変遷といった苦難を乗り越え、24年で13シーズン、全70話を達成したシリーズ。衣装や背景、小道具もちゃんと1930年代を再現しており、雰囲気を楽しめる。

短編>長編

やはり短編がおもしろい。原作が短いため、尺稼ぎにキャラクターの掛け合いを盛り込んだのだろうが、そのバランスがいい。長編は状況が複雑かつ登場人物が多いため、レギュラーのドラマがないと物足りなく、おもしろいと注意力を散らされてしまう。

魅力的な4人組

原作のポワロはいやな人物だが、デビット・スーシェはそれをユーモラスで、親しみやすい人物に変えた。原作以上に原作らしい、新しいスタンダードを構築したと思う。
あわせてヘイスティングス、ミス・レモン、ジャップ警部の人物造形が見直され、レギュラーとして確立された。この4人組の魅力が、本作を長寿シリーズに押し上げている。

変わるレギュラーの扱い

しかしレギュラーの扱いは粗雑になっていく。総じて出番が減って、ヘイスティングスはただの無能に、ミス・レモンはオカルト色が消え、ジャップ警部は文化のちがいでギスギスするようになる。原作によるものか、制作サイドの事情によるものかはわからないが、残念だった。
後半に登場するオリヴァ夫人、執事ジョージ、ロサコフ伯爵夫人は、人物造形がはっきりしないから、制作サイドが変わったんだろなぁ。個人的には原作を忘れてでも4人組を大切に描いてほしかった。

ミステリーについて

アガサ・クリスティのミステリーは、犯人を当てるゲームみたいなもの。読者の意表を突き、うまくミスディレクションしているが、そのためドラマ要素(恋愛、成長、葛藤など)がおざなりになっている。登場人物がもっと人間らしい反応を示して、なにかしらテーマ性があると、ぐっとおもしろくなりそう。

視点について

原作小説の多くは第三者視点で描かれており、必ずしもドラマの中心にポワロがいるわけじゃない。ポワロでない人物の視点で綴ることに意味がある作品もある(アクロイド殺し、ホロー荘の殺人、複数の時計など)。このあたり、クリスティもあれこれ試したようだ。
ドラマはポワロ=主人公で固定されているため、ポワロの出番を増やしたり(鳩の中の猫)、レギュラーのドラマを並行させる(エッジウェア卿殺人事件)といった工夫を凝らしているが、うまく噛み合っていないものも多い。ポワロ以外の人物を主人公にするエピソードもほしいが、ミス・マープル「終わりなき夜に生れつく」のような例もあるから、難しいところだろう。

ポワロは主人公だが、ポワロの視点で描かれるわけではない。ポワロは推理の過程を言わないし、ポワロは知らないが観客が見ているシーンもあるため、情報がこんがらがる。推理を楽しませたいなら、一人称視点にすべき。これはクリスティだけでなく、あらゆるミステリードラマに言いたいことだ。

Season 1 (1989)

コックを捜せ第一話だが登場人物の紹介なし。「もみあげ」を言えないところでポワロが外国人とわかるくらい。ユーモラスではあるが、第一話としては変化球のような気もする。人物すり替えトリックは吹き替えの声でわかってしまうね。
ミューズ街の殺人動機が友情ではなく愛だったらおもしろかったかも。そこに踏み込んだのがマクイーワンの「ミス・マープル」か。ミス・レモン、ヘイスティングスの会話が楽しい。「襟の硬さ、主人、激怒!」
ジョニー・ウェイバリー誘拐事件犯人の行動は行き当たりばったりで、このあと、どうするつもりだったのか? 没落するイギリス貴族の実情は興味深かった。車があるのに汽車で帰るポワロは頑固すぎる。
24羽の黒つぐみ『コックを捜せ』同様、声でわかってしまうが、それ以前に「変装っぽい雰囲気」が残っている。若者/老人の変装は難しい。クリケットに詳しいポワロに驚いた。
4階の部屋風邪をひいたポワロを、ミス・レモンの治療法とヘイスティングスの気晴らしが苛立たせる。事件は突飛だが、ポワロの罠はよかった。にっこり掛け金を払うところもお茶目。でも女の子たちはうるさい。
砂に書かれた三角形なかなか事件が起こらなくてヤキモキする。港で怒鳴るポワロが笑える。臨時パートナーのパメラも好印象。事件の構図は意外だが、ポワロが気づいた点が小さいような。それと少佐の正体はどこで気づいたのか?
海上の悲劇「殺人は許せません!」はポワロの信念だとしても、夫人の言うとおり、あの降霊術は残酷だった。一方、犯行を決意した背景に女の子たちの「若さ」があったのは切ない。ここは強調したい。
なぞの盗難事件要領を得なかった。見どころはカーチェイスと、ジャップ警部のいびきに悩まされるヘイスティングスくらい。冒頭で話題となる体積の計算も、事件に関係なかった。
クラブのキングカードが欠けていた→証言者はうそをついている→なぜか? という着想はおもしろい。しかし「家族万歳」で見過ごすのは意外。まぁ、依頼人のことを考えると見過ごすしかないか。
「幸せよりタイプライターがほしい」と言われたのに、ニコニコしながら置き時計を贈るポワロ。「身体の中に強い磁力があるから腕時計がダメ」とか言っちゃうミス・レモン。いいねぇ。当時を再現したであろう工場の様子や宣伝もよかった。

Season 2 (1989)

エンドハウスの怪事件シリーズ最初の長編。事件もおもしろいが、やはりミス・レモンの降霊術が最高。ヘイスティングスもちょこっと役立ってる。ジャップ警部も含めた4人がいい。ポワロは犯人の自決を予見したのに、友人たちが同様しないのはシュールだった。
ベールをかけた女ポワロとヘイスティングスの潜入シーンが見もの。ヒゲが立ってないポワロはマリオみたい。それでも尺が足りなかったから、最後は追いかけっこ。頭脳勝負じゃないが、こーゆーのもいいね。
消えた廃坑見どころはモノポリー。ダイスに息を吹きかけるのはヘイスティングスの個人的なクセか、英国の風習なのか。スコットランド・ヤードの追跡システムも楽しい。事件そのものは単純で、やや拍子抜け。
コーンワルの毒殺事件コーンワルの情景は素晴らしいが、背後にある人間関係は醜悪。ポワロは証拠らしい証拠もなく犯人を言い当ててしまうため、知的興奮はとぼしい。ただヘイスティングスはいつにかく仕事をしている。コメの効果か。
ダベンハイム失そう事件ポワロが下がることで、ジャップ警部とヘイスティングスの活躍が増えるのはいい。「コックを捜せ」同様、変装が声でバレてしまう。事件そのものよりキャラクターを楽しむ一本だった。
二重の罪これまたポワロが手を出さず、ヘイスティングスが駆け回っている。合間合間に、ミス・レモンによる鍵の捜索が挟まれる。尺を埋めるためだろうが、なかなかおもしろい。ただ犯人の自滅で決着したのは物足りない。証拠と推理がほしい。
安いマンションの事件ポワロが潜入するシーンは、物語の展開に必要ではないが、楽しい。ミス・レモンの調査、発砲したがるFBI捜査官、困惑する支配人など、脇役も魅力的。同姓の夫婦が借りに来るのを待つなんて馬鹿げてるが、キャラクターの魅力で乗り切った。
誘拐された総理大臣ジャップ警部が言ったとおり、「なにをしてるかわかるが、なんのためかわからない」。隠された意図に、ポワロはどうして気づいたのか? それからポワロと仕立て屋の会話が楽しかった。
西洋の星の盗難事件ヘイスティングスのせいで話がこじれる展開はいいが、最後まで宝石が2つあると思い込んでるところは救いようがない。これはこれでいいけど。ポワロの判断でジャップ警部が獲物を取り逃してしまったが、なんのフォローもない。いいのかな。
スタイルズ荘の怪事件2つ目の長編。アルフレッド・イングルソープが不気味。エヴリンとの関係も含め、ぞっとする結末だった。メイクのせいか、ポワロもヘイスティングスも若く見える。ポワロとジャップ警部が出会ったエピソードも知りたくなる。

Series 3 (1991)

あなたの庭はどんな庭?ヘイスティングスが花粉症のため、ミス・レモンが捜査に同行。留守番のヘイスティングスが散らかして、叱られる展開が楽しい。ミス・レモンは戦時中、遺体置き場で働いていたと言うのも驚き、あるいは納得。確たる証拠はないが、犯人がおもしろかったのでオッケー。
100万ドル債券盗難事件ニュース映像はそれっぽいが、船上はやっぱりセットっぽい。船に乗らずとも推理できるから、精一杯のサービスなんだろう。ブロンド美人から冴えない看護婦への変身が素晴らしかった。犯人が自白して終わり、じゃないところも意表を突く。ヘイスティングスが美人と不美人のちがいに悩み、ポワロが「知恵がついてきましたね」と祝杯をあげるラストもよかった。
プリマス行き急行列車ジャップ警部とヘイスティングスが2人の容疑者を追跡し、ミス・レモンのファイルが犯人の片割れを見つけ、ポワロが真相を暴く。分担されるのはうれしいが、それぞれの描写がチト足りない。また父親の悲しみがクローズアップされたことで、切ないラストになった。
スズメバチの巣うまく拡張しているが、やはり原作の切れ味に劣る。思うところもがあって、自分で演出してみた。
マースドン荘の惨劇おどろおどろしいマースドン荘と、宿の主人が書いた推理小説に振り回されるポワロの対比が印象的。犯人は邪悪だが、賢くないところが怖い。こんなトリック、すぐ露見すると思わなかったのか。恐ろしい。ガスマスクの訓練が時代を感じさせる。
二重の手がかりジャップ警部のクビがかかった事件なのに、ポワロはそっちのけでロサコフ伯爵夫人とデート。知的な駆け引きはなく、ポワロが賞賛する理由がわからない。「ヘラクレスの遺業」に再登場する伯爵夫人とも人物造形が異なっている。
スペイン櫃の秘密冒頭で決闘シーンを流しちゃったから、犯人の目星がついてしまった。仕掛けは驚くが、計画としては杜撰で、なにか補強がほしいところ。幕間は秘書代行するヘイスティングスの苦労、タイプライターと苦闘するジャップ警部、世界一謙虚になると宣言するポワロ。あとダンスのステップが軽快だった。
盗まれたロイヤル・ルビー微笑ましいクリスマス・ストーリー。馬鹿な王子がいいアクセント。チョコレートを食べたくなる。
戦勝舞踏会事件ポワロをおだてて引っ張り出すヘイスティングスがが見事。今回のヘイスティングスはちゃんと役に立ってる。仮面のため登場人物がわかりにくい。ラジオ番組で解決する趣向はおもしろかった。
猟人荘の怪事件風邪をひいて動けないポワロの代わりに、ヘイスティングスが捜査する。と思いきや後半であっさり戦線復帰しちゃうのは拍子抜け。「コックを探せ」「24羽の黒つぐみ」と同じく、若者→老人の変装だが、やはり不自然。

Series 4 (1992)

ABC殺人事件見立て殺人の代名詞。いろんなミステリーを見るまえに、出発点として押さえておきたい。
雲をつかむ死ポワロはスチュワーデスをナンパし、捜査に連れ回し、その恋路を台無しにする。
愛国殺人動機がわからない。証拠もない。愛国者の殺人というプロットもない。

Series 5 (1993)

エジプト墳墓のなぞロンドン、ニューヨーク、エジプトと目まぐるしく舞台が変わり、4人も死んでしまう。執筆当時はわからないが、現代人にとって「ファラオの呪い」がミスリードにならないのは痛かった。ポワロの死んだふりに、無謀かつ無意味だった。
負け犬降霊術、占いに続いて催眠術まで成功させるミス・レモンは、ますます謎の存在に。ポワロは「直感」に従って行動したと言うが、要領を得ない。犯人はカッとなる人間ではなく、我慢強い人物というのはおもしろい。
黄色いアイリス2年前の事件の真相をつかむため、ふたたび同じ状況を仕組むのはおもしろい。ペロッと舐めて「青酸カリ」というのはジョークだろうか? 「イギリスに料理はありません」と辛辣なポワロに、最後にお返しするヘイスティングスもいい感じ。
なぞの遺言書ケンブリッジ大学の議論がおもしろい。まさか事件のヒントになるとは思わなかった。だれにでも可能な犯行なので、犯人を特定する根拠が乏しいのはいただけない。人情に訴えるには、登場人物の描写が足りない。
イタリア貴族殺害事件事件そのものより、ミス・レモンの恋の行方が気になる。「犯人はだれか?」から「被害者はだれか?」に入れ替わるのはおもしろい。しかし電話がヒントなら、もうちょい早く気づいてもよかったのでは? 恋人より猫を優先するミス・レモンが痛快だった。
チョコレートの箱ポワロのベルギー警察時代の「失敗」、そして私立探偵としての初仕事を語るエピソード。それをジャップ警部の表彰で挟んだ構成がいい。制服&黒髪のポワロもいいが、ストーリーも渋い。組織のしがらみと情けから沈黙したポワロ。意外な結実。いいねぇ。
死人の鏡左手の銃、角度的に当たらない鏡、見つからない銃弾と、犯人の隠蔽は杜撰だが、真相を推理するのは難しい。証拠なく犯人を指名し、陪審にゆだねるのは意外だったが、その先があった。犯人はミス・レモン、と信じていた。
グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件メイドは盗む機会はあったが、金庫を開ける余裕はなかった、という簡単なトリックを、転地療養、ラッキー・レン探し、豚に真珠のお芝居、ゲスな支配人で盛り上げている。しかし象の杖をもった不審者や支配人の逮捕、密輸、舞台での逮捕は盛りすぎかな。ミス・レモンがかっこいい。

Series 6 (1995-96)

ポワロのクリスマスクリスマス・ストーリーだが依頼人は性悪、家の中はギスギス、ポワロとジャップの関係も微笑ましいとはいえず、微妙な気持ちになる。動機はいいが、鍵を掛けたのは不自然。
ヒッコリー・ロードの殺人ポワロは自分の警告を無視した犯人を特定できず、関係ない偶然から証拠をつかむ。レモン姉妹の出番が足りない。
ゴルフ場殺人事件ヘイスティングスの恋物語はあまり描写されず。ジロー刑事との対決も、ポワロに積極性が感じられない。事件は偶然が多すぎて白ける。
もの言えぬ証人死因が特定されないため、推理を組み立てにくい。オカルト老姉妹が印象的だった。

Series 7 (2000)

アクロイド殺人事件完全犯罪だったのに、べらべら真相をしゃべりだす犯人に唖然。引退したポワロの心のゆれが印象的。
エッジウェア卿の死やはり4人組の再結成がメインで、事件の解明は二の次。女優さんに華がほしい。

Series 8 (2001-02)

白昼の悪魔養生に堪えかねガツガツ食べるポワロなど、事件に関係ないところが楽しい。
メソポタミア殺人事件密室殺人なのにハウダニットを追わないなんて。

Series 9 (2003-04)

五匹の子豚「回想の殺人」の最高峰。セピアトーンとけだるいジムノペディが印象的。
杉の棺ポワロの友人であるロード医師の態度や、メアリの人物像が不明瞭なことが、ミステリーを盛り上げている。
ナイルに死すクローズド・サークルで、全員に殺害のチャンスがあったことを、もうちょい強調してほしかった。関係ない容疑者をいっせいに除去するくらいなら、省いちゃえばいいのに。
ホロー荘の殺人嫌悪感はあるけど、奇妙に思わなかった。

Series 10 (2006)

青列車の秘密ポワロの動きがにぶい。
ひらいたトランプシェイタナの行動が理解不能。
葬儀を終えて犯人の動機がおもしろい。
満潮に乗って生意気な若造を、ポワロがどう吊るすかを期待しちゃう。

Series 11 (2008-09)

マギンティ夫人は死んだ 愚鈍だから狙われたのか。
鳩のなかの猫種明かしは興奮する。
第三の女にぶい人は攻撃されていることに気づかない。
死との約束ポワロはどこまで予見していたか?

Series 12 (2010-11)

三幕の殺人犯人の動機がちぐはぐ。
ハロウィーン・パーティ嘘つきだが、想像力がない人の着想を見抜く。
オリエント急行の殺人ポワロがその結論に至ることの意味。
複数の時計容疑者シーラの視点を描いちゃダメでしょ。

Series 13 (2013)

象は忘れない依頼人の動機がしょぼくて、盛り上がらない。
ビッグ・フォー怒りのヘイスティングスはどこへ?
死者のあやまち直感にはじまり、直感に終わっちゃう。
ヘラクレスの難業ロサコフ伯爵夫人の魅力が乏しい。
カーテン ポワロ最後の事件ヘイスティングスは気づいたか?


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