ABC殺人事件 / 名探偵ポワロ #31 (デビット・スーシェ主演) The ABC Murders / Agatha Christie's Poirot #31
1992年 海外ドラマ 4ツ星 探偵 推理 @アガサ・クリスティらしい犯人と、らしくない犯人
あらすじ
ポアロのもとにABCなる人物から挑戦状が届いた。そのとおりAで始まる地名の町でAの頭文字の老婆が殺された。つづいてBの地でBの頭文字の娘が、Cの地でCの頭文字の富豪が殺された。現場にはABC鉄道案内が残され、ストッキングの訪問販売員の姿があった。
それぞれの殺人には容疑者がいたが、3つの殺人をつなげる関係性はない。
第4の殺人が起こり、アレキサンダー・ボナパルト・カスト(ABC)という男が警察に自首してくる。カストはてんかん持ちで、自分が犯人ではないかと悩んでいた。そして血まみれのナイフ、脅迫状を印字したタイプライターをもっており、彼を事件現場に行くよう命じた雇い主は存在しなかった。警察はカストを逮捕する。
アガサ・クリスティの代表作であり、連続殺人事件(見立て殺人)の代名詞。多くの亜種が生まれたため、ミステリーに慣れた目で見るとヒネリが足りないように思うかもしれないが、基本とはそういうものだ。初めてミステリーに触れる人におすすめしたい傑作である。
ドラマは原作をほぼ忠実に再現している。テンポもいいし、ユーモアもある。まったく文句はない。しかしここでは、ミステリーに慣れた目で気になるところを書き出してみよう。
ミステリーに慣れた人向け
ドラマは冒頭からカストの異常性が強調され、真犯人はとても地味に描かれている。ポワロは「カストが若い女性を引っ掛けるのは無理」と言うが、冴えない中年のフランクリンにも無理だろう。地味に見えるが、じつは女たらしとか、賭け事が好きとか、なんらかの意外性(狂気)がほしかった。たとえば真相を暴露されると急に雰囲気が変わるとか、いっそ真犯人こそが二重人格だったとか。狂人に見えるが地味なカストと、地味に見えるが狂人の真犯人と対比させるといいだろう。
3つの殺人に3人の容疑者がいて、AもBも疑わしく描いているから、Cのフランクリンが真犯人であると特定するステップが不可欠だ。ポワロは「莫大な遺産」と「宛先を間違えた小細工」を根拠とするが、それだけで断定するのは弱い。証拠もない。これほど大胆な殺人事件を犯した犯人なら、しらばっくれることも可能だっただろう。
カストをヘイスティングスの知り合いにしておけば、ドラマが深まったかもしれない。ヘイスティングスから聞いたポワロの話を、カストが真犯人に伝えることで、計画に組み込まれたとか。ヘイスティングスが友人の疑惑を晴らそうとすれば、推理も明瞭になる。まぁ、だいぶ変化球になってしまうけどね。
本作はスタンダードな映像化として大きな価値がある。だからいつかリバイバルするときは、変化球を期待したいかな。
真相
ポワロは納得できない。カストは優柔不断で、愚鈍で、暗示にかかりやすい。第2の殺人にアリバイがあり、若い女性を引っ掛ける性的魅力もない。一連の犯行は理性をなくしたまま実行するのは不可能だ。
これが無差別殺人ではなく、目的の殺人を隠すための偽装だとしたら?
一連の殺人でもっとも利益を得るのは、第3の殺人で殺された富豪の弟、フランクリン・クラークである。フランクリンは兄の財産を相続したいが、殺せばすぐ自分に疑惑がかかる。そこでドミノゲームで知り合ったカストを利用するアイデアを思いついた。
フランクリンは架空の雇い主となり、タイプライターを送付し、ターゲットに接触するよう指示した。第3の殺人は確実に成功させるため、挑戦状が遅れて届けられる必要があった。そこで個人の住所をもつ私立探偵を巻き込むことにした。
フランクリンの犯行と裏付ける証拠はなかったが、ポワロの嘘に騙されたフランクリンが逃走したことで、逮捕された。
アガサ・クリスティ | |
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ポワロ | |
デビット・スーシェ (David Suchet) | |
ピーター・ユスティノフ (Peter Ustinov) | |
声:里見浩太朗
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ミス・マープル | |
マーガレット・ラザフォード | |
アンジェラ・ランズベリー | |
ヘレン・ヘイズ | |
ジョーン・ヒクソン | |
ジェラルディン・マクイーワン | |
ジュリア・マッケンジー | |
声:八千草薫
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ゆっくり文庫 | |
奥さまは名探偵 | |
ほか | |
検察側の証人 | |
そして誰もいなくなった | |
ほか |