レビュー  2001年04月20日  に発表された 

白昼の悪魔 / 名探偵ポワロ#48 (デビット・スーシェ主演)
Evil Under the Sun / Agatha Christie's Poirot #48

3ツ星

複雑にすればいいってわけじゃない

この事件の特徴は、クローズド・サークルなのに、容疑者全員にアリバイがあること。誰が、なぜ、ウソをついているのか? スーシェ版はここがフォーカスされないため、意識が散漫になってしまう。いたずらに容疑者を増やし、無関係な出来事を起こし、ややこしくすればいいってわけじゃない。ミステリーの醍醐味を見誤っている。

この差は、ユスティノフ版と比べると歴然とする。
たとえば、本作にはアリス・コリガン事件の関係者である牧師(スティーブン・レーン)が登場し、「白昼に悪魔がいる」と訴えるが、彼自身は犯人を識別しておらず、ただの世迷い言だった。それじゃ登場させる意味ないじゃん!
同じくアリス・コリガン事件の第一発見者を彷彿させる自転車旅行中の女性客(エミリー・ブルースター)が登場するが、類似を指摘するシーンはない。まぎらわしいだけ。
ヘロイン密輸にまつわる登場人物(バリー少佐、ホレース・ブラット)もまったく不要。尺稼ぎでしかない。

不可解な動機

アレーナ殺害の動機は、「詐欺によって全財産を奪ったことが露見するのを防ぐため」とされるが、劇中でもあったように、アレーナが殺害されたからこそ詐欺の可能性が露見したわけで、パトリックに容疑がかかるのは時間の問題だろう。姿を消すつもりなら、殺害する必要もない。
アレーナは殺害される前の晩、何者か(ネイサン・ロイド?)から電話を受けたが、内容はハッキリしない。すでにパトリックに全財産を託しているなら、手付金を払うこともできなかったはず。もし、財政状況が逼迫していると知れば、パトリックを疑うか、マーシャル大佐に相談するか、さもなくば激しく動揺したはずだが、アレーナの態度に変化はない。だったらなぜ、こんなシーンを挿入したのか?

私ならこうする。予想外の出来事からアレーナは詐欺の可能性に気づき、パトリックを問いただす。パトリックは詳しく説明すると言って、アレーナをピクシー・コーヴに呼び出す。切迫した状況だったから、絶海の孤島という隔離空間なのに犯行に及んだ。また証拠になる瓶を投げたり、ホテルで風呂に入ったのも、これで説明できる。もちろん、これですべてを説明できるわけじゃないが(汗)。

キャラクターは素晴らしい

しかしスーシェ版には、キャラクターの魅力がある。原作に登場しないヘイスティングス、ジャップ警部、ミス・レモンがよく動くこと。とりわけミス・レモンは、ポワロの肥満を厳しく指摘し、いやがるポワロを静養させ、ヘイスティングスに監視させる。事件発生後は別行動で調査し、謎解きの場に駆けつける。ミス・レモンのとぼけた有能さが好きなのよね。
またポワロも、蕁麻ジュースにスチームバスと苦難がつづく。本土でむしゃむしゃ料理を食べるシーンは、ストーリー上はまったく必要ないが、おもしろい。ヘイスティングスはいつもどおり無能で、またもや大金を損してる。ジャップ警部も事件の緊張感を高めてくれた。ほんと、いいキャラクターたちだ。
あと本編に関係ないが、海を渡るバス「Sea tractor」がおもしろかった。

Sea tractor
※海を渡るバス「Sea tractor」 Burgh Island Hotel

プロット

  1. アレーナ・スチュアート ... 被害者。元女優。マーシャル大尉の妻だが、男好き。扼殺される。
  2. ケネス・マーシャル ... 大尉。殺害時刻は部屋でタイプライターを打っていた。
  3. ライオネル・マーシャル ... ケネスと先妻の息子。毒物の本を読んでいた。殺害時刻、クリスティーンといっしょだった。事件現場に彼の眼鏡が落ちていた。
  4. パトリック・レッドファーン ... アレーナの友人であり、公然と逢引していた。死体の第一発見者。
  5. クリスティーン・レッドファーン ... パトリックの妻。事件当時はライオネルといっしょだった。
  6. ロザモンド・ダーンリー ... マーシャル大尉、ポワロの旧友。殺害時刻はテニス中。
  7. エミリー・ブルースター ... 自転車旅行中の滞在客。アレーナのせいで大損害を受けた。何者かに瓶を投げられる。パトリックといっしょに死体を発見した。
  8. スティーブン・レーン ... 牧師。白昼に悪魔がいると断言する。たくさんの瓶をもち、モルヒネを常用していた。殺害時刻は本土にいた。
  9. バリー ... 少佐。ポワロに島を去るよう警告する。
  10. ホレース・ブラット ... 滞在客。麻薬取引していた。

「死体が発見された時刻よりあとに殺された」というトリックは、ミス・マープルの短編「クリスマスの悲劇」でもあった。なるほど、いろんな応用ができそうだ。たぶんトリックや情景描写が先にあって、それから動機を考えたんだろうな。

本作を見たなら、ピーター・ユスティノフ版『地中海殺人事件』(1982)も見ておくべき。キャラクターとイベントを整理し、テーマを明瞭にし、動機と機会と証拠で犯人を追求してくれる。スーシェ版が優れていると思うところは、「アレーナが事前の取り決めによって洞窟に隠れた」ところくらいかな。

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白昼の悪魔 / 名探偵ポワロ#48 (デビット・スーシェ主演)