エッジウェア卿殺人事件 / ポワロ (ピーター・ユスティノフ主演) Thirteen at Dinner

1985年 海外ドラマ 5ツ星 探偵 @アガサ・クリスティ

殺人に慣れていく犯人

デビット・スーシェ版「名探偵ポワロ#47 エッジウェア卿の死」(2000)と比較するため鑑賞する。原題を直訳すると「晩餐会の13人」。言うほど13人はクローズアップされないが、しゃれたタイトルだ。本作にはデビット・スーシェがジャップ警部役で出演していた。辣腕でも愚鈍でも頑固でもなく、ふつーの警部だった。やっぱりジャップ警部はフィリップ・ジャクソン(声:坂口芳貞)のイメージが強い。
ピーター・ユスティノフが演じるポワロは、『死海殺人事件』(1988)を見ているが、本作でも女性のお尻を追っかけるなど、ちょいエロ中年という位置づけ。デビット・スーシェ版のような偏屈さはないが、プライドが高く、好々爺だけど油断できない。これはこれでいいポワロだ。
それからヘイスティングス(ジョナサン・セシル)も登場する。ポワロと年齢が近く、軽口を言い合って、とても仲がいい。基本的にぼんやりしているが、ポワロの推理をきちんと理解しており、それなりに有能。スーシェ版のヘイスティングス(ヒュー・フレイザー)とは異なるが、これはこれでいい。というか、こっちの方がいい。

Peter Ustinov and Jonathan Cecil
※ポワロ(ピーター・ユスティノフ)とヘイスティングス(ジョナサン・セシル)

ジェーンが魅力的

ジェーン・ウィルキンスン(フェイ・ダナウェイ)は美しく、甘えん坊で、強引で、悪人であることを隠しもせず、それでいて華があって、役のイメージぴったりだった。ポワロや多くの男たちが振り回されるのも無理はない。しかも振り回すことが目的だったらしく、最後のシーンに圧倒される。
カーロッタ・アダムズも二役で演じているため、ジェーンに化けても無理がない。当たり前だが、見分けがつかない。15年後のスーシェ版はなぜこのスタイルを踏襲しなかったのだろう?

推理の過程がわかる

スーシェ版に比べ、格段にわかりやすい。ポワロは場面ごとに推理を整理してくれるし、次の行動も明言する。たとえば、

  • ジェーンとエッジウェア卿で手紙のすれ違いが起こると、ポワロは4つの可能性を挙げる。
  • エッジウェア卿のメイドがジェーンを見たと証言すると、顔は見えなかったはずとその場で検証する。
  • 成りすましトリックの可能性をつぶやいたあとで、カーロッタが殺される可能性に気づく。
  • ポワロがいない場面は、証言者が語るまで伏せられている。
  • 「エッジウェア卿の死によって得する人物は?」と疑問を投げかけてから、聞き込みする。
  • カーロッタの手紙は、まず文面を読み、つづいて実物の手紙と過去の手紙を比較して、夜まで解析して手がかりを見つける。

金の薬入れがカットされたため、「5つの疑問」は言及されないが、すっきりしている。娘や甥、執事も登場はするが目立たないため、疑惑が散逸しない。これで十分成立するし、おもしろい。参考になる。お気に入りシーンを挙げておく。

カーロッタの死体を発見したポワロとヘイスティングス。
H「殺されたのか?」
P「最初の殺人では犯人も良心の呵責に苦しむが、2度目は楽になり、3度目はもっと楽にできる。世の中の常で殺人も習慣になるんだ」

これは、今後の展開を知っていると予言に等しい意味をもつ。

ポワロはカーロッタが投函した手紙を調べろとジャップ警部をせっつく。
P「カーロッタのことだよ」
J「大きな山を抱えてるんだ。そこまで手が回らん」
P「ブイヤベースでは、小魚に味わいがある」
J「何の話だ?」
P「大事なのはスープ全体。中身の大小など関係ない」

ドラマを左右するシーンじゃないけど、うまい言い回しだなと思った。

ピーター・ユスティノフのポワロはイメージとちがうと思っていたけど、がぜん興味が湧いた。ほかの作品も見てみよう。

アガサ・クリスティ
ポワロ
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