妖怪奇談 WOMAN TRANSFORMATION
2007年 日本映画 5ツ星 ホラー:ショート内なる闇が在様を変える
アイドルが出演するホラーなんて凡作ばっかりだが、これは例外。コミカルだけど怖い。怖いけど切ない。映像に不思議な優しさがある。言葉を使わない表現が見事で、引き込まれてしまった。亀井亨監督は要チェックだ。
ろくろ首 ROKURO (宮光真理子)
[あらすじ] 美智子はモデルなのに、うまく笑えない。リテイクが相次ぎ、グループにもスタッフに迷惑をかけてしまう。首の痛みがひどくなった美智子は現場で倒れてしまう。病院でレントゲンを撮ったところ、頸骨が蛇のように多段化していた。
[感想] 誰も悪口を言ってないのに、歪む口元やフラッシュで切迫感が伝わってくる。ひょっとしたら美智子の思い込みで、実際は誰も彼女を責めていないかもしれない。確たることがないから、想像に歯止めが効かない。おもしろい演出だ。
首の痛みは、頑張りたいけど頑張れない彼女の都合にマッチしている。鬱屈した思い病気を招き、ひいては身体を変容させてしまったのか。もはや彼女に居場所はないだろう。そう考えると、ほか2名より救われたラストかもしれない。
かまいたち KAMAITACHI (伴杏里)
[あらすじ] フリーターのみひろは、ネイルアートに夢中。近ごろツメが早く伸びるようになったが、気にしない。ツメはどんどん長く、硬く、鋭くなっていき、日常生活にも支障が出はじめた。いよいよ困り果てるが、自分本位に生きてきたみひろは周囲に助けを求めることができず、いたずらに切りつけてしまう。
[感想] みひろにとってネイルアートはなんだったのだろう? いろいろ無頓着なのに、ネイルアートへの執着は尋常じゃない。男たちの視線を気にしていたとも思えない。すべての望みを捨てた彼女に残された、最後の「女らしさ」だったのかもしれない。
みひろの内面は、バイト中にぶつかった通行人に向けられたぞんざいな口ぶりにあらわれている。自分のことしか考えてないから、誰も信用できず、誰からも信用されない。本当は助けてほしいのに、状況を悪化させていくばかり。このあたりの展開は痛々しかった。
のっぺらぼう NOPPERA (市川春樹)
[あらすじ] 中学生のまなは、素直そうに見えるが幼稚な残酷さを隠し持っていた。ある日、まなは暴漢に襲われ入院することになる。友だちに恨みを買ったようだが、まなは生き方を変えようとしない。ほどなく、まなは顔が失われていくことに気づく。
[感想] 用もなくナースコースを押したり、美智子の悩みを知りながら揺さぶって楽しむ姿には憤りをおぼえた。そのくせ父親の前ではいい子を維持し、街頭で歌う女性からCDを買うような側面もある。どうしてそんな性格になったのか? わからないし、わかりたくない。心の荒んだ少女が妖怪になった。そう考える方が気楽だ。追い詰められ、わんわん泣きわめく彼女に同情したくないから。
美智子、みひろ、まな。3人とも周囲とのコミュニケーションに失敗している。自分を偽れない、自分をさらせない、自分を制御できない。彼女たちの心に「闇」があって、それゆえ妖怪になったと断じるのは簡単だが、そうなった原因を考えると切ない。3人とも、決して悪い子には見えないから。
オープニングとエンディングのショートコントは蛇足だった。時間が余っちゃったのかな? 気になるのはそのくらいだ。
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